新人蔵人の疑問

"過去最高に土田" を迎えそうな『土田 生酛仕込み (TCDR1-C)』

(著:野崎 @nozakijpn)

*TCDR1-C:1BYラベルに記載のロットナンバー(全A~C)
*4月上旬に搾り火入れの予定
*出荷は2本目が完売したら順次切替


さて、3本目の土田に一体なにが起きているのか。
キーワードは、"1麹、2酛、3造り"

酒造りでは昔から言われてる言葉で、特に重要なポイントだそう。
知ってはいたけどようやく実感し始めたという星野さんに後輩たちも湧き立つ。



https://twitter.com/watanabe_dun/status/1242028083407798274


1、麹に起きた変化

麹は米を溶かす。溶けたものが酒になったり、酵母が食べてアルコールにする。
真夏のような麹室でおこなう製麴(せいきく)は、つくるというより育てるイメージだ。
このイメージになったことが大きな成長を遂げるポイントになる。

28BYが始まる少し前、星野さんが目指した"クリアな旨みの山廃"を象徴する緑のラベル『土田 山廃純米吟醸』の酒質アップを模索していた頃。今となっては師匠と呼ぶ新政酒造さんに求愛し研修させてもらった。このとき学んだ、麹を育てる技術によってうちの麹は格段に良くなった。

具体的には、1:米を溶かす力が強くなったこと、2:麹由来のオフフレーバー(嫌な香り)を減少させたこと。確かに、飯米へのシフトや低精白化はこれなしには語れない。

でも、まだまだだってことが今年分かったそうな。
よく登場する岡住さんが来てからだ。研修当時の新政の麹屋でみんなが知ってるあの人。



「新政の製麴を再現してるつもりだったけど、本質を理解していなかった。」と星野さん。
製麴ってひとことで言うけど、蒸した白米を床にひいて...

・どの麹菌にするか・どのくらい振るか
・どのくらい着床したか(ここも重要だった)
・盛のタイミング(ここも重要だった)
・製麴時間・どんな温度経過をたどるか・どんな手入れをするか 等

新政の麹は、デンプンを糖分にする酵素がパワフルでありながら、タンパクをアミノ酸にする酵素を抑える。
アミノ酸は雑味と感じられるからだ。クリアな土田に求めていたバランスだ。
(後の『イニシャルM』でアミノ酸の旨みにも魅了されてしまうんだけどね。)
そのためには特殊な温度経過や製麴時間やその他多くの仮説が重要になるそうだ。

教科書的にも、過去のうちにしても、麹はどちらの酵素も弱くなるようにつくっておいて酵素剤を添加することで糖化酵素だけUPさせるっていうのが常識になっている。ただし、酵素剤は使わないと決めたので雑味を出さない製麴方法を星野さんは模索していた。

星野さんが本質を理解していなかったと語るのは、温度経過や製麴時間といった管理方法を再現していたものの、麹の状貌(五感で感じる"イケるよ"の合図)を見ていなかったこと。強い麹をたくさん振っても、白米の蒸気で飛散していれば着床率は低い。麹にとっては仲間が少ない状態だ。この状態で工程を進めて温度管理しても、思った麹にはならない。つまり、今までは不安定だった。2本目の土田が「たまたま上手くいった」と語るのは、そういうことも絡んでいるようだ。

状貌を五感で感じるため、岡住さんの助言で薄手の青いゴム手袋を外すことになった。(それまで手を洗った上に手袋をしていた。)ずっとそうしてきた岡住さんは温度を上げる前(盛り前)に麹を触るとにわかに信じがたい状貌でも「来るっすよ!」と言って、本当に来た。あと、温度計が間違ってることをその手で見抜いた。手にセンサーを内蔵しているそうだ。

感銘を受た星野さんは急いで出品酒の麹もつくり直した。
金賞獲ろうもんなら靴舐めるアポを代わりに取っといてあげよう。


土田3本目に与えた最大の影響は、<状貌を見極める>ことだろう。
この変化が、過去最高に納得のいく麹になっているはずだ。




2、酛に起きた変化

添削してもらって分かった。
今回、星野さんが褒められたいポイントは<酛>!

前提として、うちにはゴリラのような野生酵母がそこら中にいる。
酵母無添加に挑戦して3シーズン目の昨年、菩提酛×山廃酛で今までいなかった酵母が沸き始めた。
これがあまりにも強烈で、乳酸菌汚染祭り(本人談そのまま)となり1BY以降の菩提酛は活動休止とした。

素人には、強烈な野生酵母と乳酸菌汚染の関連性はピンとこなかった。

手短にいうと、酛では酵母をしっかり育てたい。
添加する7号酵母にちゃんと活躍してもらった上でクリアな旨みを表現したい吟醸酒が土田だ。
菌は陣地取りだって社長がよく言っている。数が多い方が最後に勝つ世界。
今まで酛で10%くらいの野生酵母が残っていても感覚的に大丈夫だと思っていた。だが、ことゴリラ酵母に関しては醪で逆転してしまうことが多発した。協会酵母は低温でも動けるが、野生酵母は低温だと動きづらいっていう特性があって、逆転したにもかかわらず低温発酵を続けてしまうという状態になる。パワフル麹を使っているので栄養リッチな上、アルコール度数が低い等の条件下では乳酸菌が勝ってしまうっていうことらしい。

低アルコールで乳酸菌の酸味が豊富な酒の代表『イニシャルF』がまさにこれ。
でも不思議とこれが野崎にとっても一部のコアなお客さんにとっても最高旨いんだけど、星野さんにとっては恐怖でしかない。下手したら酵母添加の酒が全部イニシャルFになるっていう問題に直面した。

最初に打ち勝ったのが『誉国光 尾瀬淡麗』だった。
その当時、星野さんが突然ある報告書を提出した。

【土田酒造的酵母添加型生酛製造方法】


この報告のあとの3本で明らかにうまく行き出したらしい。



この変化を解説するのはここじゃないし、何度聞いても分かったもんじゃない。
協会酵母がほぼ100%に近い生酛が立てられるようになりつつあることは、よりいっそう土田が土田らしくなることを意味する。7号、クリアな旨み、吟醸、の土田が"過去最高に土田"らしく仕上がってくるだろう。



3、まとめ(”過去最高に土田”)

『土田 生酛仕込み TCDR1-C(3本目)』 は、パワフル麹が安定したこと、酛での協会酵母が安定的に活躍できるようになったこと、つまり2本目までとは違って、星野さんが求めている土田に最も近い土田になってくるだろう。
(それでもまだやりようはあるらしく、決して完成とは言わないけど。)

『土田生酛仕込み』は、いまの土田酒造にとって出品酒を除けば唯一の高精白(60%精白)。
乳酸の添加をなくしたり、山廃が安定したり、麹がパワフルになったり、生酛が安定したり、土田らしさを追求することが多くの変化に関わってきた。
そしてこれからも、高精白の土田は造り続けるだろう。星野さんもそう思ってるそうだ。

長らく土田酒造の東京進出を夢見てきた『土田生酛仕込み』
+新定番『酵母無添加生酛(仮)』の二枚看板まであと少し。

高精白でクリアな旨みと、低精白で厚みのあるアミノ酸の旨み。
この幅が、次の酒へのワクワク感を演出するってことか!と書いてて思った。
...さすが社長の直感は冴え渡る。


1〜3本目の飲み比べがしたいです!って社長にスリーパーしながら提案するつもりだ。

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