酒造りの教科書や先輩蔵人からは
『アミノ酸は出すな』と教えられてきました。
”アミノ酸度の高い酒は失敗”
本当にそうなのでしょうか。
『アミノ酸』は日本酒の”旨み”であり”雑味”でもある
日本酒のコクや旨みの目安になるのが ”アミノ酸度”。
アミノ酸は、人間が『うま味』と感じる味の元になる成分です。
アミノ酸の持つうま味成分が他の甘みや酸味とバランス良く合わさることで、日本酒の美味しさを作り出していると言えます。
ただし、このアミノ酸度。高くなると ”雑味やエグみが出て飲みづらい酒になる”とも言われます。
それ故に『アミノ酸は出すな』と教えられてきたのです。
純米酒のアミノ酸度全国平均は”1.43”。
鑑評会に出す出品酒や大吟醸酒では1.0以下のものも多くあります。
土田酒造の代表的なお酒、シン・ツチダが3.7〜4.3、Tsuchida99が3.4。
土田酒造は平均してアミノ酸度が高い酒造りをおこなっています。
昨年度のアミノ酸度平均が3.9でした。
高アミノ酸度のシン・ツチダとTsuchida99などは、麹の使用量(麹歩合)を高くして、
麹の酵素で米を溶かし豊富なアミノ酸を得る設計をしています。
(麹歩合 シン・ツチダ:35% Tsuchida99:99%)
研究醸造Data15では、麹歩合を15%と大幅に低くし、麹の酵素で米を溶かすのではなく
発酵温度を高く推移させて米を溶かすという、いつもとは違う設計でアミノ酸を豊富に生成することを狙いました。
目標は『アミノ酸が豊富でいて糖分は少なく軽い、旨い酒』です。
研究醸造Data15の造りや研究結果については、動画にて醸造責任者である杜氏が解説していますのでぜひご視聴ください。
驚きの味!驚きの分析値!!
できたお酒を試飲いたしました。
『旨みがすごい!』
『でも後味は意外と軽い!』
アミノ酸度4.0です。
濃いです。
でも意外と軽いんです。
これはやはり”麹を少なくした”ことが大きな要因のようです。
分析値を見てみましょう。
アミノ酸度:4.0
酸度:3.5
アルコール分:16%
日本酒度:ー4.0
グルコース:0.8
参考にシン・ツチダが
アミノ酸度:4.0
酸度:3.6
アルコール分:16%
日本酒度:ー13.0
グルコース:3.4
(令和2BYの貯蔵タンク一本からの数値)
アミノ酸度と酸度が同じくらいでも
日本酒度とグルコースが明らかに違います。
”糖分が少ない”ということですね。
麹の糖分で米を溶かさず、発酵品温を高くして米を溶かすことで
米が溶けて生成したアミノ酸を得ることができたのです。
麹歩合15%でアミノ酸度4.0って、すごくないですか!?
アミノ酸が高くても軽い酒は造れる
ここで最初に出てきた
アミノ酸は出すな!雑味が出るから!の話に戻りましょう。
異例のアミノ酸度4.0で、軽い酒。
なんで雑味やエグみが感じられないのか??
それは『酵母が死ななかったから』なのです。
発酵の終わり頃になると、酵母は自分が出したアルコールに耐えられなくなり死滅していきます。この酵母が死滅する時にアミノ酸を生成してしまうのです。
酵母の死滅により生成したアミノ酸は、雑味やエグみ、飲みづらさの原因になってしまうのです。
土田酒造では毎日顕微鏡で酵母の活動を検査しています。
研究醸造Data15では、酵母の生菌率90%以上とほぼほぼ死滅を抑えることができています。
酵母が死滅して生成したアミノ酸ではなく、
米が溶けて生成したアミノ酸だから
アミノ酸度4.0でも、軽いお酒ができたのです。
研究醸造Data15 オススメの飲み方
糖分が少なくアミノ酸が多い酒。
やはり只者ではありません。
普通に飲んだら『?』な味に感じる方もいるかと思います。
このお酒は、かならず食べ物とあわせてお飲みください。
肉や魚、特に濃い味付けのお食事がオススメです。
食べ物とお酒のアミノ酸が調和することで、旨味が口の中にいっそう広がります。
このお酒を飲んで感じたのは、
バランスの大切さ。
甘み、酸味、旨味など、
味を形成する様々な要素のバランスがとっても大事だということです。
糖分が少ない分、単体で飲むとやや苦味を感じる方もいるかも知れません。
ぜひ食事とご一緒にお召し上がりください。
また、まだ少し味に硬さがあるため、開栓して2週間以降にお飲みいただくことをオススメ致します。
保管はもちろん常温で。
これは飛び道具的な飲み方ですが、
このお酒を他のお酒とブレンドして飲んでみてください。
アミノ酸が少ないすっきり軽いタイプのお酒に一割程度ブレンドしてみてください。
研究醸造15を調味料的に使い『アミノ酸の旨みをプラスする』のです。
アミノ酸の複雑な旨味が加わることで、日本酒の新たな可能性を感じられるかもしれません。
多アミノ酸酒が日本酒のNEWスタンダードに!?
アミノ酸の旨みは、お米から造られた日本酒ならではの特徴のひとつです。
今では当たり前になった甘口や酸味のある日本酒が、ひと昔前はまったくと言って良いほど受け入れられていませんでした。
アミノ酸の多い日本酒も今はまだ少ないですが、5年後10年後に普通に酒屋さんに並ぶようになっているかもしれません。
業界に問いを投げかけた『研究醸造 Data15』。
日本酒の旨味であり特徴の『アミノ酸』に焦点をあて追求しました。
米の酒の本質はここにあるのではないだろうかと感じさせられた一本です。
Text by:OZAWA (Instagram @ozawa0278)
群馬県沼田市出身。伝統的なものづくりに憧れ、1999年土田酒造に入社。
酒造り、瓶詰めの製造部門から始まり販売部門である事業部を経て、現在はセールスプロモーションマネージャーとして、デジタルマーケティング、広報PR、各種SNS運用、ブランディングなど勉強中。
動画撮影/編集、グラフィックデザインなど、クリエイターとしての一面も。